(「000東大パパ」から続けて読んだ方が楽しめます)
人間の業を煮詰めて、太った女性の形にすると私の妹ができあがります。3歳年下の妹の生き様が、私の人間観の幅をべらぼうに広げてくれました。
現在130kgを超える体重で、20代にして糖尿病を患う妹のことを、私は「ラードちゃん」と呼んでいます。
太っていて、天然パーマで、メガネをかけていて、勉強はどんなに頑張っても下の中を維持するのが精一杯、父親に似てコミュニケーション能力が非常に低いというラードちゃんは、常にいじめられっことして生きてきました。
さらに、ラードちゃんには虚言癖がありました。誰の得にもならないウソをつきまくってまわりを混乱させ、ますますイジメがひどくなり、そんな状況で注目を引こうとまたウソをつくという、不幸この上ない負の連鎖によってイジメはひどくなる一方です。
ラードちゃんには不思議な嗅覚があり、心の隙間を絶妙についたウソをつくので、みんな何度でもだまされてしまうのです。
例えば、私が中学2年生の頃、ラードちゃんが、
「プール教室に山本さんが入ってきたよ。」
と言ってきました。山本さんは私が小学生の頃ずっと好きだった同級生です。別の中学に進んだ山本さんのその後が知りたくてたまらないちょうどのタイミングでした。
私がその話に食いつくと、プール教室での山本さんのことをラードちゃんは事細かに教えてくれます。大会での具体的な記録まですらすらと出てきます。
そして、人は時として自分からわざとダマされてしまうのです。
「今日は山本さんがお母さんと車で来てたよ。」
「あれ?山本さんのお母さんは病気で亡くなったはずだよ。」
「……。でも、お母さんって言ってたよ。」
「そうかぁ、お母さんが亡くなってもう4年くらい経つから、再婚したのかもね。仲良さそうだった?」
「うん。普通だったよ。」
「それは良かった。山本さんはずっと寂しそうだったからね。」
ウソに気づいてもよさそうなやり取りですが、心の隙間は正常な判断力を奪います。
そして、このチャンスを逃す手は無いと意を決して、私は山本さんに電話したのでした。
「もしもし、久しぶり。東です。」
「えーっ、本当に久しぶりだね。急にどうしたの?」
「いや、妹がお世話になっているみたいだからさ。」
「えっ?何のこと?」
「ほら、プールで。」
「プール???」
「……。いや、何でもない。元気にしてる?」
「うん、まぁね。」
「ならいいや、急にごめんね。バイバイ。」
あの、一瞬にして自分の愚かさがパァーッと目の前に広がった感覚、やられたぁーっという感覚は、ちょっと爽快ですらありました。
こんなことをそこら中でやらかすのです。
親戚の美人姉妹が思春期に入ってちょっとギクシャクしていたところに、ラードちゃんが
「お姉ちゃんのことを上のお姉ちゃんが”遊んでいる”って言ってたよ。何して”遊んでいる”の?」
なんて絶妙なウソを吹き込んで、美人姉妹の大ゲンカが始まったり、それはもう見事なだましっぷりでした。みんなラードちゃんの虚言癖を知り尽くしているにもかかわらずです。
最近、どう見てもブサイクに分類される女性が男をダマして、金どころか命まで奪うという事件が立て続けに起きています。あんなブスがどうやって男を手玉にとるのかと話題になっていますが、私は分かる気がします。
あの犯人たちは、ラードちゃんと同じような過程で同じような能力を身につけたのだと思うのです。すなわち、社会の一番隅っこに追いやられることで、むしろ社会全体がよく見渡せるようになって、じっと人間観察しているうちに、他人の心の隙間が透けて見えるようになったのです。
ラードちゃんの場合は、母親が辛抱強く愛し続け、その後、女子柔道という彼女の存在意義たりうるものと出会ったおかげで、今では短大を卒業して立派に仕事しています。
そして、結婚までしているのです。ラードちゃんが22歳の若さで結婚するという話を聞いて、親戚一同、心からびっくりしました。さらに、連れてきた旦那さんがとっても真面目なイイ方で、ラードちゃんが身につけた魔力は、当然、恋愛にも有効なのだなぁと感心したのでした。
人間の業を煮詰めていって魔力が生み出され、それが平和利用されるという、なかなかお目にかかれない過程を、すぐ横で見せてくれたラードちゃんのことを、私は妹ながら尊敬しています。
ただ、いくら業を煮詰めて形作られたラードちゃんとはいえ、「暴食」の業はさすがにどうにかしないと、糖尿病は本気でヤバいと思う今日この頃でした。
(「007バカ旦那の野望」につづく)
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