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2010年7月31日 (土)

018数学の天才小山くん

「000東大パパ」から続けて読んだ方が楽しめます)

この世に天才は存在するが、天才もまた人間に過ぎない。

私が大学で学んだ一番大切なことです。それを改めて確認させてくれる本でした。久しぶりに心がふるえる本に出会えました。藤原正彦の「天才の栄光と挫折~数学者列伝」という本です。

ニュートン、関孝和、ガロワ、ハミルトン、コワレフスカヤ、ラマヌジャン、チューリング、ワイル、ワイルズという古今東西の天才数学者9人の人生をたどり、彼らの人生が苦悶と挫折に溢れるものだったことを描き出します。

多くの天才数学者に共通して見られるエピソードが、若い頃に理解者を得られずに苦しみ、良き理解者との出会いを契機に歴史的な発見への階段を昇り始めるというものでした。

私は高校時代の友人、小山くんのことを重ねずにはいられませんでした。彼は数学オリンピックの日本代表合宿に参加するほどの数学的才能の持ち主でした。結局、日本代表にはなれず、この本に描かれているような天才とは比べるべくもありませんが、一般人からすると次元の違う能力でした。関西の大学の数学科に現役で進みました。

彼は決して友人が多い方ではなく、そんな中で私とはとても仲が良かったのでした。当時から好奇心のかたまりだった私は、宇宙のことや時間のことを小山くんと延々と語り合うのがとても楽しかったことを覚えています。彼からオススメされたラヴクラフトは、いまいち私の肌に合いませんでしたが。

彼は肉体的にはひ弱でしたし、人付き合いが得意ではなかったので、しばしばからかいの標的にされていたのですが、いじめに発展するようなことは私が許しませんでした。私は当時から精神的に猛烈なマッチョだったので、それが可能でした。

大学時代は関東と関西に別れて連絡が途絶えてしまったのですが、私が社会人になって最初の勤務地が関西だったのをきっかけに、久しぶりに連絡をとりました。彼は大学院を卒業する年で、さっそく会おうということになりました。

京都のスターバックスで6年ぶりに会った小山くんが語る近況は芳しいものではありませんでした。彼は研究者の道を進みたかったのだけれど、大学院に進学する試験の時点でその道は閉ざされたのだそうです。院試によって合格者の中でAコースとBコースに厳然と分けられて、Aコースの人にしか研究者への道は開かれていないのだそうです。Bコースになってしまった彼は、院試に臨む際の情報収集競争において後れをとってしまったことを悔やんでいました。数学的な才能は基準を満たしていたはずだと思っているようでした。

大学院を卒業した後の進路について聞いてみたところ、とてもじゃないが自分がまともに会社勤めを出来るとも思えないので、とりあえず地元で親の遺産で食いつなぐとのことでした。唯一の家族だったお母さんが高校卒業後しばらくして亡くなって、小山くんは天涯孤独になっていたのでした。

それからしばらくは特に連絡を取り合うこともなかったのですが、私が関西を離れて次の勤務地に行ってすぐの頃に小山くんからメールが届きました。

「部屋を借りるのに保証人になってくれませんか?まともに仕事をしていて保証能力のある友人が君しかいないのです。」

私はずいぶん悩んで断ることにしました。父と曾祖父が保証人で地雷を踏んで大変な目にあった我が家は、「保証人になるべからず」が唯一の家訓なのです。賃貸物件の保証なんて大したリスクではないので、私が独身だったら引き受けていたのですが、家族を背負った身となればそうもいきません。

そのむねをメールで書いて送り、小山くんとの関係はそれっきりです。

 

「天才の栄光と挫折」に描かれた天才数学者達も、小山くんと変わらないようなことで悩んでいました。住む家に困ったりしていました。人付き合いがうまく出来ないことに心を痛めていました。その様子が生き生きと描かれていて、だからこそ、奇跡のような数学の業績を生み出すために、彼らがどれだけ苦悶したのかがよく分かりました。天才が魔法を使って生み出したのではないのです。天才が血を吐くような思いをして、さらに幸運に恵まれて、さらには先人達の積み重ねがあってはじめて、偉大な業績が生まれたのです。

天才も所詮は同じ人間です。彼らにすべてを委ねればうまくいくはずというのは、とんでもない現実逃避なのです。凡人も含めて、みんな自分の頭で一生懸命考えて、自分に出来ることを一生懸命やっていかないと、世の中は良くならないのです。

どこからともなくやってきて全部解決してくれるスーパーヒーローなんてどこにもいないのだと、この本を読んで改めて確信したのでした。

地元の公立小学校で神童扱いされていた私に

「お前は井の中の蛙だ!世の中には凄まじい天才で何でもできる人がいるものだ。」

と親が言うので、圧倒的なスーパーヒーローがどこかにいるはずだと、町有数の進学塾、県有数の進学校、日本有数の大学と昇っていって探してみましたが、そんなスーパーヒーローはやっぱりどこにもいませんでした。きっと世界クラスになったところで、事情は大して変わらないだろうと思っていたのですが、やっぱりそうだとこの本が教えてくれたのでした。

文庫版が出てお手軽になったこともあって、心からオススメしたい本です。

「019なんでも当たるラードちゃん」につづく)

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しみじみとした話ですね。
ただ、この作者が何故ゆえに数学者の栄光
そして挫折にスポットを当てたのかということ
に興味を覚えました。

早速読んでみたいと思います。

投稿: はなまる@沖縄 | 2010年7月31日 (土) 20時24分

>>はなまるさん
この作者が数学者の栄光と挫折にスポットを当てた理由は、たぶん私のメッセージと同じで、

天才も所詮人間だ

ということを知って欲しいからだと思います。

数学者って、一般人からすると一番遠いところにいるというか、浮世離れしているというか、一般的な「天才」のイメージにぴったりなんだと思います。

そして、自分の考える力に自信が無い人ほど、天才をむやみに神聖視して、天才には何の悩みも無いのだと思い込んでいる傾向があると思うのです。

それは、みんなにとって不幸なことで、全人格的な完璧さを求められる天才もたまったものじゃないでしょうし、凡人には何も出来ないと卑屈になる人ほど、むしろ無責任に文句だけは言うようになるし…。

何はともあれおもしろい本で、数学的知識はまったく必要ないので、ぜひぜひ読んでみてくださいませ♪

投稿: 東大パパ | 2010年8月 1日 (日) 11時48分

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投稿: Juegos | 2010年12月21日 (火) 18時17分

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投稿: Juegos | 2010年12月22日 (水) 08時40分

>>Juegosさん
どんなサイトにも書き込める、とってもいいコメントですね。

投稿: 東大パパ | 2011年1月 2日 (日) 22時24分

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